令和4年5月に宅建業法が改正され、 不動産取引で書面交付が義務付けされている契約書の電子化が可能になりました。
今回は、電子契約のメリット・デメリット、利用の際の注意点ついてお伝えしたいと思います。
なお、本記事の作成にあたり、宅地建物取引業協会の会員向け機関誌・REAL PARTNERを参考にしています。
令和4年5月の宅建業法の改正による電子契約の概要は次の通りです。
・従来は宅地建物取引士による記名・押印が必要とされていた重要事項説明書、契約書、媒介契約書などの書類について、電子メールやダウンロードなどの電磁的な方法による提供が可能となった。
・これらの書類については、従来の押印にかわり電子署名などを用いることができるようになった。
・不動産売買において電子契約を行う際には、売主・買主の承諾が必要。
従来の書面による契約と比較してのメリットは、「不動産取引における場所や時間の制約がなくなり、さらに契約までの時間を短縮できる」ことです。
具体的には次のことが挙げられます。
・契約書や重要事項説明書などの書類を紙に印刷する必要がなく、書類がかさばらない。
・紙面による契約で必要とされる印紙は電子契約では不要となるため、売主・買主双方にとって費用の削減になる。(1000万円の売買の場合では1万円の印紙代が不要になる。)
・従来、契約の際には不動産会社の事務所などに売主・買主・媒介の不動産会社の担当者が集まったり、不動産会社の担当者が関係者を訪問したりする必要があったが、ZOOMなどのWEB会議システムを利用することにより、各者が自宅や自社の事務所に居ながら可能となる。
・対面により行う場合には日時が休日などに限定されることが多かったが、電子契約は日時を問わずできる。(重要事項説明はWEBで面談が必要なため)
・紙の契約書などの記載事項に誤りがあったり変更が生じた場合には、その箇所の修正後に再度の印刷をしたり、関係者から訂正印をもらったりと労力と時間を費やしていたが、電子契約書ではパソコン内での修正だけで完結するため、不動産会社にとっては負担が大幅に減り、売主・買主にとっては訂正押印の手間が減ったり、契約までの時間を短縮できる。
・現住所から遠隔にある土地や建物を売買したい売主・買主は、以上のメリットを最大限に享受することができる。(国外居住者による売買も円滑になる。)
電子契約の致命的なデメリットは「電子機器を持たない人や操作が不得手な人は利用できない」ことでしょう。
いくら不動産会社がお客様のメリットを考えて電子契約を提案したとしても、それがお客様のストレスになるようでは本末転倒です。
この他にも、次のようなデメリットが挙げられます。
・詐欺メールなどと同様に、なりすましによる詐欺にあう可能性がゼロではない。なりすましを防ぐためには、電子証明書およびタイムスタンプを利用できる電子契約サービスを選ぶ必要がある。(宅地建物取引業協会が提供するハトサポサインなど。)
・電子書類を電磁記録媒体に保存し、容易に消去されない状態にする必要がある。(クラウドサービスを利用するなど。)
令和6年現在、「まちの不動産会社」周囲では、電子契約の活用が進んでおらず一部に留まっているように感じています。
その原因は、「電子機器の操作が不得手」な売主、買主、不動産会社が多くいることでしょう。
たとえ得意な人であっても、ネット回線のトラブルなど不安要素は尽きません。例えば、重要事項説明の途中で停電などが原因でネットから切断されたら、説明が中断がしてしまいます。すぐに回復しない場合には、別日に日時を調整して仕切り直すことになります。売主・買主の回線トラブルならまだしも、不動産会社側にトラブルがあった場合には・・・と考えると悪夢ですね。そんなリスクを背負うぐらいなら、電子契約のメリットを捨ててでも従来通りのアナログ契約をしたいという心理になるのは当然のことかと思います。
電子契約のメリットを享受しつつ、上記のようなリスクを回避する方法としては、契約を電子契約で行い、重要事項説明は対面で行うというデジタルとアナログを両立して行う方法が考えられます。電子契約システムの手順通りに電子署名をするだけなら、比較的容易に行うことができるので、操作が苦手な人にとってもさほどハードルは高くないように思います。
最近、私は携帯電話のキャリアを変更しましたが、その際に店頭で電子契約をしました。また、愛車の売却の際にも買取業者とLINEで電子契約をしました。皆様もそのような経験が増えているのではないでしょうか。とはいえ、不動産の売買取引自体が初めての方は、電子契約以前に知らないことが多すぎて不安要素を増やしたくはないかもしれませんね。その場合には、遠慮なく、不動産会社に従来通りの書面による契約を要望しましょう。
私の予想では、売買契約の関係者が現在の若年層にシフトするにつれ、電子契約が一般的になっていくと思っています。
一方で、個人的な気持ちを言うと、契約の際の売主様、買主様との歓談という貴重な時間を捨てがたい気がしております。
特に、売主様が愛着のある建物を売却される際には、買主様にその建物で過ごした思い出を語られたりと気持ちを整理する機会になる場合もあります。
そのようなシーンに立ち会うことができることも、「不動産売買のお手伝いをしていて良かった。」ことのひとつです。
ですから、今後「電子契約があたりまえ」の時代になっても、「やっぱり対面で行いたい。」という希望をお持ちでしたら、喜んで従来の契約方式でお引き受けいたします。
今回は、電子契約についてお伝えさせていただきました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
まち・土地・建築のRISM 近松 慶孝